仕事帰りの電車の中で読めるをコンセプトにした、宵のつれづれシリーズ。今回は第26回目、EIE流・ファンタジーです。
EIE流・ファンタジー
前回はEIEの自己犠牲という記事を書きました。
EIEが時折見せる自己犠牲的なふるまい、
……いいよ、大丈夫。私が1人であいつら全員やっつけるから。…え、腕のケガ? こんなの慣れっこだよ♪ …でも最後にお願い。お母さんのこと、よろしくね。
もう二度と帰ってこられないことをわかっていながら微笑むヒロイン……。みたいな話を前回はしていました。
これがマンガだったら、デカデカと見開きにされるシーンですよね。ヒロインの笑顔のアップか…いや、引きの構図で、向き合う主人公とヒロインを横から写す方かな…。それで手前には、ぼやけた花とか咲いている。
これだわ。あとはお母さん・ヒロイン・主人公の3人がうつった写真なんかも写り込ませたらよりそれっぽくなりますけど…。まあそんなことはどうでもよくて、要は一番の泣きどころなわけですね。読者でさえ「もういいって…ッ!!行くな……ッ!!」とヒロインを抱きしめて引き留めたくなってしまうような、涙なしでは読めない感動シーンです。
ですがこの名シーンを、冷ややかな目で見つめている人たちがいるとしたら……。そのうちの1人は、間違いなくストラティエフスカヤ大先生でしょう。
彼女は、この高潔すぎる王道ヒロインみたいなEIEの行動について、はっきりとこう言います。
――「架空の無防備さ」(мнимая беззащитность)。
一応説明しましょうか。
まず「架空」とは、現実には存在しないニセモノ※1ということですね。
次に「無防備さ」というのは、前回から言ってきたように、何かのために自分の身を積極的に犠牲にするような危なっかしさのことです。
つまり、です。「王道ストーリーにおけるあまりに高潔かつ悲劇的な運命を迎えるヒロイン」のようなEIEのイメージ。これは、EIEが作り出したファンタジーだということ。
EIEの無防備さに同情を覚えたあなたは、つい手を差し伸べたくなるでしょう。まるで主人公にでもなった気分で、ヒロイン・EIEを強く抱きしめて引き留めるかもしれません。
もういいって…ッ!! 行くな……ッ!!
ですがヒロイン・EIEは、少し微笑んでこう言うだけ。
ありがとう。…でも行かなきゃ! 大好きなこの村を、失いたくないの。
「EIEを見捨てるなんてできない…」「でも俺だって大好きな村を失いたくない…」、あなたは究極の二択を迫られ、葛藤します。
そして……。
俺も行く……ッ!!
あなたは、EIEのファンタジーに飲み込まれ、二度と出られなくなるのです……。
とまあこんな感じですかね。EIEが自己犠牲をする本当の狙い、なんとなーくおわかりいただけたでしょうか。次回に続きます。
※1 「架空の無防備さ」について、他の記事では「架空の欺瞞的な無防備さ」というふうに「欺瞞的な」(обманчивая)が付け足され、人を欺くニセモノという皮肉なニュアンスがより明示されているところもあったりします。
※ひよこちゃんのセリフはイメージです。